弁護士コラム

2010/03

情報リテラシー

南竹 要

 今日は,世の中にあふれている情報について考えてみたいと思います。
日本国内のインターネットの普及率は,直近のデータですと75.3%(総務省統計調査データ)となっています。国民の大半がインターネットを通じて情報を得る環境が整いつつあります。
  最近では,ネットを通じた選挙運動を解禁すべきだという意見も盛んに唱えられているように思われます。
  インターネットを通じて,国境なく情報にアクセス可能となり,情報が溢れている状況です。もっとも,中国ではネットの情報統制が行われており(いわゆる「Great Firewall of China」,万里の長城を「Great Wall of China」と呼ぶのに準えていると言われます),他にも数カ国統制されている国があるようです。
  統制の是非については,敢えて取り上げないとして,少なくとも,私たちの生活においては,氾濫する情報の中から取捨選択する能力が大事になってきます。情報を自己の目的に適合するように使用できる能力のことを「情報リテラシー」といいますが,何をするにも「知らなきゃ損」といったことに遭遇することがよくあります。
  たとえば,食事をする場合にネット上にクーポンがあったり,電化製品を買う際に価格比較サイトで最安価格を見つけたり,とお得な情報も多くあります。
  安くすむなら,みんながそのような行動に出るではないか!と思いがちですが,実際はそうではなく,価格重視の客とそうではない客が現に存在し,売り手はそうした人々の行動を選別し(経済学にいうスクリーニング),新しい商品開発に生かしたりするみたいです。
  取引当事者においては,情報の非対称性の程度が著しいと,そもそも取引しないという最善の選択をし,市場が不活性となるため,情報の非対称性を「そこそこ」解消する必要が生じ,そのために,スクリーニング等の手法を用いるようです。
  もっとも,取引当事者がそれぞれ保有する情報が全く同じであれば,そこに対価を支払う必要がなくなるわけですから,そこそこの情報格差は市場成立には必要なわけです。
  私たちが,今の世の中を納得して生きるためには,ネット情報を精査し,できるだけ情報格差を縮めた状態で当事者として対峙したいものです。
  ただ,ネット情報は,膨大ですが,とことん調べてみますと,究極の奥義までは入手できません。全世界にオープンにする情報なわけですから,真偽不明なそこそこの情報しか手に入らないことも事実です。
  結局は,ネット情報を手がかりに,その道の達人に直接会って聞くことによって納得いく情報が得られるものです。情報リテラシーには,情報取得の優先順位というのがあり,必要な情報へのアクセスが一番早く効率的なのは,「詳しい人に聞く」ことです。
  このことは,我々の職業にも当てはまることでして,法律相談Q&Aや,トラブルへの対処法等ネットでも「そこそこ」書いてありますし,本にもそこそこ書いてあるものですが,実際自分の事例でどうなるのかは判断しかねるものです。
  法的判断というのは,単に価格等の単発情報のみを得るのではなく,評価を伴うことですので,暗黙知といわれるものが非常に大事となっています。日本のあらゆる現場において,この暗黙知の重要性や伝承について再検証されている昨今ですが,ネットや書籍ではこの暗黙知が得られるわけではありません。
  このコラムをご覧の皆様も,迷ったらお気軽に我々にアクセス頂ければ幸いです。何か法的判断を迫られている方は,法律行為をする前に,アクセス頂ける方が紛争解決コスト(時間的意味でも,費用的な意味でも)が低くすむことが多いことにも留意してみてください。
  次回は,法的な紛争解決にかかるコストについて少し考えてみたいと思います。

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