弁護士コラム

2016/04

子育て世代たる選挙民

南竹 要

 「保育園落ちた日本死ね!」の匿名ブログで今年の2月から3月にかけて一気に議論が燃え上がった待機児童問題。
 保育園を作ろうとしても「うるさいから」と開設に反対する住民との軋轢、保育園の先生たちの待遇と人手不足、育児世代に対する政策の機能不全など、背景には様々な問題が凝縮されています。
 選挙も近いことですし、若い世代が自覚をもって選挙権を行使しないと、自分たちの生活環境の改善は、選挙権をきちんと行使する高年齢者の意見の前にお預けとなりかねませんので、働く世代に焦点を絞って、色々と考えてみたいと思います。

  1. 所得再分配の前後における若者の貧困率上昇というデータの意味すること
    日本は、先進国では特異なのですが、所得再分配(税収から、福祉等で再分配すること)後に子供の貧困率が「上がる」国です。
    このデータからすれば、「日本は、子供に冷たい国だ」などと批判されそうですね。
    このデータからいえることは、子供の貧困率が上がるというのは、働き盛りの親に対する「行政からの」リターンが非常に少ないということを意味するにすぎません(確かに横浜市なんか少なすぎますね)。
    グローバル化する「前」の日本では、「人生の後半」における福祉については、国が面倒をみましょう、「人生の前半」の福祉については、企業が担ってくれるでしょう、ということで護送船団方式が機能したのです。終身雇用、福利厚生など企業がかなり手厚い待遇をほどこしてきたので、国も政策としての子育て世代への所得の再分配をせずに済みました。
    しかし、グローバル化によって、世界の競争相手がいる以上、賃金の固定費化を減らさざるをえない状況になり、非正規雇用が急増しました。
    上記役割分担が「うまくいっている」と思っている間に、社会の構造がかわり、結局、「非正規」の「若者」への所得の再分配がほぼゼロ的な状況が出現してしまっていることを内閣府も自覚しているようです。
    内閣府の所管する自殺に関する統計によれば、現に、若者の自殺率は高く、20代の死因について、50%が自殺。30代までの死因の1位が自殺という状況となっている。よく3万人といいますが、年代構成に着目すべきです。
  2. 人口減少
    日本には資源がなく、これまでやってこれたのは、人材が有力資源だったからで、人材に高い付加価値をつけてきた結果です。付加価値というのは質・量ともにです。働く量が他国より多いというのもそれ。どれだけ働くかが国の豊かさでもありました。
    しかし、非正規の若者には、OJTなどを通じて、人材に付加価値を付けるという哲学・課程が欠落してしまって久しいです。
    少子化もかさなって、日本の人材という豊富な資源(分厚い中間層)が絶対にこのままでは枯渇し、いよいよたいした国ではなくなってしまいますね。
  3. 国も若い世代、非正規で勤務する人たちへの所得の再分配政策を考えるといって久しく、きちんとやってはいるのでしょうが、取り組みを紹介、検証する人が少ないです。弁士は、この辺りに焦点を絞って、政策論争をして、論点を選挙民に提示して欲しいところです。
    現政権は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)を制定し、平成28年4月1日に一部施行し、これらの問題に対処しようとしています。
    育児・介護等を理由に働いていない女性(女性の非労働力 人口のうち就業希望者)は約 300 万人に上ります。
    さらに、子育て期の女性に焦点を当て ると、第一子出産を機に約6割の女性が離職するなど出産・育児を理由に離職する女性は依然として多いですよね。  また、雇用形態を見ると、女性は出産・育児等による離職後の再就職にあたって非正規雇用労働者となる場合が多いことから、女性雇用者における非正規雇用労働者の割合は半数以上となっています(厚労省の通達など)。
    これらの問題に対処するには、政策だけでなく、全世代の個々人の理解と行動によって速やかに意識を改革すべきと思います。
    こういうことを思いながら、子供の面倒をみてくれる保育園の先生たちに感謝しながら送り迎えをしているわけです。
    子育て世代の問題点がこれほど注目されている時期はありません。もともと、保育園通園期間の子育ては数年たてば過ぎ去るので、問題だと感じる時期は一定期間であり、当事者はどんどん入れ替わります。そういう意味で、継続的に社会問題化しにくかったという面もあるかとおもいます。
    いい機会ですので、選挙民の心に刺さる政策論争を期待しつつ、筆を置き、次回のコラム担当回を待つとします。

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