弁護士コラム

2020/02

民事裁判手続のIT化が始まります

浦田 修志

 今月から一部の裁判所で民事裁判手続のIT化がスタートしました。
 これまで、裁判を行うには裁判所に出向く必要があり、例外的に遠隔地にいる場合などで電話会議が認められているにすぎませんでした。書面の提出も紙かFAXで、オンラインでの提出はできませんでした。しかし、諸外国では、裁判手続のITが進められていることもあって、日本でも、政府の「未来投資戦略2017」で裁判手続のIT化を推進する方針が示されました。そして、内閣官房に設置された「裁判手続等のIT化検討会」が平成30年3月30日に「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて」を発表しました。この取りまとめでは、以下のようなIT化の内容と実現に向けたプロセスが示されました。

内容 e提出 主張や証拠のオンライン提出、訴訟記録の電子化など
e法廷 ウェブ会議の導入など
e事件管理 訴訟記録へのオンラインアクセスなど
プロセス フェーズ1 現行法の下でのウェブ会議等の運用
フェーズ2 改正民訴法に基づく弁論・争点整理等の運用
フェーズ3 システム構築によるオンライン申立等の運用

 そして、民事訴訟手続をIT化した場合における課題の整理や規律のあり方を検討するため、公益社団法人商事法務研究会の中に「民事裁判手続等IT化研究会」が発足し、令和元年12月13日、「民事裁判手続等IT化研究会報告書-民事裁判手続のIT化の実現に向けて」を取りまとめました。今後は、法制審議会での議論を経て、2年ほど後に民事訴訟法が改正され、改正法に基づく運用が始まることになりました。
 ただ、法改正までには時間がかかることから、現行法の下で可能な「フェーズ1」として、マイクロソフト社の「Teams」というソフトを使って、当事者の一方又は双方が出頭しないままウェブ会議で争点整理を行う運用が今月からスタートしたのです。まず東京地裁をはじめとする高裁所在地の地裁から始まり、横浜地裁では今年の5月からスタートすることになっています。
 裁判手続のIT化は、裁判所に出頭する時間的・経済的負担を軽減し、裁判の迅速化にも役立つと期待されています。オンラインでの書面提出が可能になれば、利便性も向上します。他方、裁判では対面して議論することも大事だという意見や、IT化によって弁護士や事件が大都市に集中したり、裁判所の支部が統廃合されたりして、地方では司法へのアクセスがかえって後退するのではないかという懸念も示されています。また、IT化研究会の報告書では、オンライン申立を段階的に義務化する案が示されていますが、これに対しては、ITが不得意な人の「裁判を受ける権利」を侵害するおそれがあるという批判もなされています。
 「裁判を受ける権利」は憲法によって保障された権利です。どこにいても、誰にとっても使いやすいIT化を目指すべきで、我々もスタートしたばかりの運用や法制審議会での議論を注視していく必要があります。

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