弁護士コラム

2017/12

裁判所の嘘

阿部 泰典

今年もあとわずかですが、今年、こんな裁判がありました。

交通事故の事案で過失割合が争点でした。

1審判決は、当方が85%、相手方が15%との判断でした。
1審判決に不服の当方は東京高等裁判所に控訴しました。

高等裁判所では、職権による和解勧告によって第1回口頭弁論期日後に和解の席が設けられることが多いのですが、本件でも通例通り和解の席が設けられました。

和解手続では一方の当事者ごとに和解室に呼ばれ裁判官と話をすることが多いのですが、本件でも一方当事者ごとに裁判官と話をしました。
私が、裁判官と話をした際、和解を担当する主任裁判官(高等裁判所は3人の裁判官の合議で結論を出しますが、和解を遂行するのはそのうちの一人の裁判官であることが多いです)は、一審判決は変更しなければならないと思っているが、控訴人側の過失の方が少ないとすることはできないというのが合議の結果で、過失割合は控訴人60%、被控訴人40%と考えているので、この割合で和解を検討して欲しいということでした。当方の過失が少ないとしてもらえなかった点は残念でしたが、一審判決は変更されるとのことだったので、控訴した甲斐があったと思いました。

その後、相手方代理人が裁判官と話をし、再度、私が和解室に呼ばれると、裁判官は、先方が60%:40%では無理だと言っているので、70%:30%で検討して欲しいとのことでした。

先程と話が違うではないかということは当然指摘しましたが、裁判官は70%:30%で検討して欲しいとのことでした。

依頼者の方は同行しておりませんでしたので、双方、次回期日までに検討してくることになりました。

依頼者の方に以上の経緯を説明し、当方の結論としては60%:40%でなければ、和解には応じられないということになりました。裁判所が合議の結果、60%:40%と言っていたので、和解が決裂して、判決になっても、60%:40%の判断が出る可能性もあることを考えての結論でした。

相手方は、80%:20%でないと和解できないとの結論になったとのことでした。

普通にいけば、60%:40%で、最低でも70%:30%の判決は出るはずなので、当方は相手方提示の80%:20%まで譲渡して和解することはしませんでした。

その結果、和解は決裂し、判決言い渡し期日が指定されました。
後日、判決をもらって、驚きました。結果は、控訴棄却でした。つまり、一審判決は変更せず、一審判決と同じ結論を高等裁判所は採用したのでした。

細かい%は最悪やむを得ないとしても、少なくとも主任裁判官が一審判決は変更されなければならないと思っていると明言した以上、当事者及び代理人は一審判決が変更されるものと思うのが人情ですが、この裁判の結論はそうではありませんでした。

裁判所に騙された思いで、釈然としない結末となり、今後は裁判所も嘘をつくことがあり得ることを念頭に置いて業務をしなければならないなと思いました。

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