弁護士コラム

2020/08

民事裁判手続のIT化(Web会議)を経験して

前田 八郎

 先日,Web会議を経験しましたので,その時の経験等を本コラムでお伝えしようと思います。
 はじめに,「民事裁判手続きのIT化」の概要については,当事務所の浦田が弁護士コラム(本年2月担当)に掲載したとおりです。2020年2月から、東京地裁を含む一部の裁判所において、「Web会議等を活用した争点整理」の運用が開始され,現在は,横浜地裁においても少しずつ活用されています。
 また,昨今の新型コロナウィルスの民事裁判手続への影響は,当事務所の阿部の弁護士コラム(本年7月担当)に掲載されたとおりです。緊急事態宣言が出された4月7日から同宣言が解除された5月25日までの間のすべての裁判・調停期日が取り消され,解除後に順次期日指定が始まりましたが,未だに期日指定がされない事件もあります。実質的に裁判所の運営が一部麻痺していると言わざるを得ず,当職らとしては強い危機感を抱いています。
 かかる状況に対して裁判所も同様に危機感を抱いた様で,現行法の下で取り得る手続(争点整理手続き)を活用し,少しでも事件を進める動きがあります。
 その1つとして「書面による準備手続」(民事訴訟法175条)があります。同手続は,本来遠隔地にいる当事者等のために書面の交換や会議電話等の利用により当事者の出頭を要せず行う争点整理手続です。コロナ禍で「密」を避ける必要があるため,1日に開催できる裁判期日も自ずと制限されています。その様な中で,法廷への出頭が不要になる同手続は,多くの事件で利用されています。
 もっとも,「書面による準備手続」は,裁判の初期段階では争点整理のために有効ですが,あくまで書面のみのやり取りになるため,和解協議など直接の協議が必要になる場面(主に裁判の中盤以降に多くなります。)では十分に機能しません。
 そこで,今後多くの事件で「Web会議」が活用されると予想されます。
 「Web会議」では,裁判官と原告・被告の代理人がカメラ付きパソコンを利用して,互いの顔を画面で見ながら協議進行します。関係当事者の表情を確認できる点で電話会議とは大きく異なり,画面越しに裁判官・相手の表情を確認しながら議論できるので,的確な補充説明・反論ができ,充実した争点整理が可能となります。また,音声の品質も電話会議よりもクリアで,当職としてはとても聞きやすかったです。今回,実際にWeb会議を経験しましたが,ストレスなく充実した協議を行うことができました。
 世間では,現在の新型コロナウィルスによる混乱は,今後もしばらく続くと予想されています。そのため,多くの民間企業と同様,司法界においてもより多くのコロナ対策は必須といえ,幸か不幸か,今回のコロナ禍により民事裁判手続のIT化が加速すると感じました。ある民間企業では出勤社員数は通常時の半分以下,その他の社員は在宅勤務として,多くの業務をオンラインで対応しているとのことです。民事裁判手続においても移動を最小限に抑える対策が求められているといえます。
 最後に,民事裁判手続のIT化が我々の仕事へ及ぼす影響を考えてみました。
 まず,今回の「Web会議」の事前準備の段階で,パソコンの設定に苦労したという当職の経験に照らせば,弁護士の素養として,今後層,最低限のIT,及びパソコン機器等への知識が必要になるといえます。併せて,当然ながら最低限の機材が必要になるといえます。
 次に,弁護士や事件の大都市集中化の点については,当職としては極端な集中化は起こらないと考えています。その理由は以下のとおりです。まず,IT化が進んだとしても,弁護士との打合せは,多くの場合引き続き対面での打合せが続くと思います。なぜならば,本人確認の必要性,多くの資料を同時に見つつ正確な事案把握の必要性があるからです。また,IT環境の整っていないご依頼者もいらっしゃると思うからです。他方で,IT化が進めば,裁判所の近くに事務所を構える必要性がなくなり,むしろ,依頼者となる方々のアクセスしやすい場所に事務所を構える必要性が高くなります。そして,民間企業のIT化が進めば,人々は会社のある大都市近郊に住まなくても仕事ができるため,大都市を避けて郊外あるいは地方都市に居を構える方が一定数増えると予想します。結果的に,人々の居住地の志向に合わせて,弁護士や事件も一定程度分散されると考えています。
 結局のところ,人と人の関わり合いによってトラブルが生じるので,当職の様ないわゆる町弁はご依頼者の近くにいて気軽にご相談頂くことが大事になります。この点は,IT化が進んだとしても変わらないと考える次第です。

以上

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