弁護士コラム

2020/11

新型コロナウイルス感染症の影響で債務の返済が困難になった方へ

浦田 修志

 現在、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」と言います)の第3波の真っただ中にあります。飲食業の方々を始め、皆様、大変な影響を受けているものと思います。
 地震や豪雨等の自然災害によって、住宅ローンや事業性ローンの返済が困難になった個人の債務者のために、債務整理を公平・迅速に行って生活や事業の再建を支援するため、平成28年4月から、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」が運用されてきましたが、今般、このガイドラインの特則が設けられ、本年12月1日から、新型コロナの影響を受けた債務者にも適用されることになりました。
 この制度の概要は、新型コロナの影響で、基準日である2020年2月1日以前と比べて、収入や売上が減少し、同日以前から負担していた債務の返済が困難になるなど、所定の要件を満たした個人の債務者(個人事業主を含む)が、金融機関等の債権者と協議をし、全ての債権者の同意を得て、債務の減額や免除を受けるというものです。この制度による債務整理を開始するには、まず最も大口の債権者(メインバンク)に申し出て、その同意を得る必要があり、その同意を得たら、地元の弁護士会等を通じて、この制度の運営機関から「登録支援専門家」の委嘱を受けます。その後、全ての債権者に対して債務整理の申し出を行い、「登録支援専門家」の支援を受けながら、債務の返済計画を含む調停条項案を作成して債権者に提出し、その同意を得て、最後に簡易裁判所に特定調停の申立を行います。特定調停により、調停条項が確定すれば、債務整理が完了することになります。この手続の期間中は、債権者は債権の回収をすることができなくなり、債務者は原則として資産の処分や新たな債務の負担ができなくなります。調停条項案は、破産との比較などから債権者にとっても経済合理性を有するものでなければなりませんが、住宅を手放さずに生活や事業の再建ができるようにする住宅資金特別条項を設けることもできます。
 この制度と破産や民事再生のような法的倒産手続との違いは、まず、対象となる債権者は原則として金融機関だけで、取引先は対象とされませんので、事業の棄損を防ぐことができます。また、この制度による債務整理を行っても、信用情報(いわゆる「ブラックリスト」)に登録されません。保証人がいても、原則として保証債務の履行は求められません。さらに、この制度の利用にあたっては、弁護士や不動産鑑定士等の「登録支援専門家」の支援を無料で受けることができます。
 平成28年4月の運用開始から本年9月までのこの制度の利用実績(債務整理成立件数)は520件でしたが、新型コロナの影響の長期化により、今後、利用が増えることが予想されます。この制度の詳細については、「一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関」のウェブサイト(dgl.or.jp)をご覧ください。

この弁護士のコラム一覧