2022/05
池波正太郎を訪ねて
福下 博詞
池波正太郎著「男の作法」という本をご存知でしょうか。
「男がどのように生きていくか」という問題について、池波正太郎氏が自らの体験を基に考えを語っているエッセイになります。
池波氏も「この本の中で私が語っていることは、かつては『男の常識』とされたことばかりです。しかし、それは所詮、私の時代の常識であり、現代の男たちには恐らく実行不可能でありましょう。時代と社会がそれほど変わってしまっているということです。」(同書はしがき)と記しているように、池波氏が語っている内容の中には、もしかすると現代社会の価値観とは少々合わないものもあるのかもしれません。
しかし、私としては、「こんな振る舞いができたら粋だなぁ」と感じることが多く、いつの時代にも共通する「男としてのかっこ良さ」というようなものを学んだような気がしました。
今でもときどき読み返しており、人生のバイブルの一つとなっている本です。
池波正太郎氏と言えば、食通でも知られ、食に関するエッセイもたくさん書いておられます。
私の事務所のある中華街の中には、池波氏が通っていたお店が現在もあり(蓬莱閣、徳記、清風楼など)、私もお昼休みにときどき食べに行っています。
池波氏はもう30年以上も前に亡くなられていますが、生前に池波氏が食べていたであろう味を今でも味わえることに、ロマンを感じます。
さて、前置きが長くなりましたが、先日、かねてより気になっていた「池波正太郎記念文庫」に行ってきました。
「鬼平犯科帳」など数多くの時代小説を発表した池波氏の資料を所蔵、公開する文学館なのですが、西浅草の台東区立中央図書館の中にひっそりとあり、なんと無料で見学することができます。
池波氏の直筆の原稿や、当時使用していた万年筆など数々のお宝が展示されていました。
中でも、池波氏の生前の書斎を再現したスペースは圧巻で、池波氏の仕事ぶりを間近で見られたような気分になりました。椅子から手を伸ばせば、必要なもの全てに手が届くように配置されており、執筆作業がしやすいように整頓されていました(私も業務スペースをもっと仕事がしやすいように整理整頓しようと思いました…。)。
また、大判の江戸の古地図に「鬼平犯科帳」、「剣客商売」、「仕事人 藤枝梅安」といった代表作の舞台とされた場所が示されており、「主人公の家はここにあったのか!」などと知ることができて、作品に対する理解も深まり、非常に楽しむことができました。
記念館を出た後は、池波氏の生まれ育った浅草に一層の親近感が湧いたことは言うまでもありません。
その後は、浅草を堪能すべく、浅草寺に参拝し、最後は、太宰治の「人間失格」にも登場するカクテル、「デンキブラン」で有名な神谷バーへ行きました。
どこか懐かしい感じのする洋食はどれも美味しく(大食いの本領を発揮して5つのメニューを制覇しました。)、ビールをチェイサーに名物「デンキブラン」を楽しみました。
アルコール度数高めで、名前の通り、飲んだら舌がビリビリするような感覚の美味しいカクテルでした。
マスクの下では舌がビリビリしています。
ふと周りを見渡してみると、地元の常連と思われるお客さんが多く、まさに地元の社交場として皆に愛されるバーのようでした。
神谷バーは明治13年創業ということですが、店内は当時の面影を残していて、タイムスリップしたような感覚を味わうこともできました。
浅草に用事がある際は是非立ち寄ってみることをオススメします。
とりとめのない内容となりましたが、池波正太郎氏がきっかけで浅草を訪れ、最後は伝統の神谷バーで締めたというお話でした。
私は、最近、レトロな雰囲気が感じられる場所が好きなので(例えば、「男はつらいよ」の舞台となった柴又など)、どこかいい場所がありましたら、教えていただけると嬉しいです。