弁護士コラム

2022/10

リモートでの裁判

阿部 泰典

 最近は、リモートで民事裁判が行われることが増えました。これまでは、遠方の裁判所の場合に電話会議で行われることはありましたが、裁判は基本的に裁判所に出廷して行われるものでした。
 裁判は、近時、元々出廷からリモートに移行していくことが予定されていたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大により、裁判のリモート化が一気に進みました。
 民事裁判は、尋問手続になるまでは、主張(準備)書面を作成して、書証(書面の証拠)を準備して、裁判期日の前に予め裁判所と相手方に提出ないし郵送しておき、裁判期日当日にやることは、裁判官に「準備書面を陳述しますか」と問われ、「陳述します」と述べ、提出した書証の原本のあるものについて原本を提出し、原本と提出済みの写しに相違ないか裁判官と相手方が確認し、裁判官が相手方に「次回までに反論しますね」と聞いて、相手方が「反論します」と述べて、次回期日の日程を決めて終わりです。そのため、5分もかからないことが少なくありません。
 これまではそれだけのために、近い裁判所ならいいですが(当事務所でいえば横浜地裁)、東京地裁でも片道1時間余り掛かりますので、往復の移動時間に2時間半近くを要し、遠方の裁判所の場合には、半日や1日掛かってしまうことがありました。そのため、リモートでの裁判が増えてからは、この移動時間がかなり減り、時間を効率的に使うことができているはずなのですが、どういう訳か労働時間が減らないのが謎です。
 このリモートでの裁判は、地方裁判所では行われていますが、家庭裁判所や簡易裁判所ではまだ行われていません。自動車保険の弁護士費用特約案件では簡易裁判所での裁判が少なくなく、また、遠方の裁判所が管轄のこともあります。簡易裁判所の事件は、問題となっている金額が140万円以下ですので、地方裁判所の事件と比べますと、弁護士費用も低額となりますので、我々弁護士にとっては時間が掛からない方が助かりますし、依頼者の方の交通費(実費)負担も掛からないに越したことはありません。そのため、簡易裁判所での裁判こそリモートでやってもらいたいのですが、簡易裁判所での裁判についてリモート行われる予定は今のところないようです。
 リモートでの裁判は、当然のことながら、裁判官とも相手方弁護士とも顔を合わせるのはパソコン画面上で、裁判が終われば、パソコン画面を閉じて終わりです。裁判所に出廷している場合には、法廷が終わった後に相手方弁護士と法廷から出てエレベーターに乗って裁判所の玄関まで話して帰るような時もありますが、そのような時に、事件について法廷での杓子定規の話とは違ったざっくばらんな話が聞けて事件の解決の糸口が見えたり、あるいは、相手方弁護士の人柄が分かって面白かったりするのですが、リモートではそのようなことはなく、ちょっと寂しい気もします。
 今後の裁判は、主張書面や書証の提出自体もリモートで行われるようになり、尋問もそのようになっていくようであり、どんどんドライな感じになってしまうのでしょうか。
 そのうち、裁判官も弁護士も不要になって、証拠をパソコンに入れて、パソコンが結論を出してくれる世の中になるかもしれませんね。

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