弁護士コラム

2023/07

所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し

前田 八郎

 皆様は,所有者不明土地の問題をご存知でしょうか。
 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法では,「所有者不明土地」は「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地」と定義されています(同法2条1項)。令和3年の国土交通省調査によると,所有者不明土地の割合は約24%に上り,実に,北海道の面積よりも広い所有者不明土地が存在することになります。
 そして,所有者不明土地の増加は,公共事業の推進等の様々な場面において,所有者の特定等のため多大なコストを要し,円滑な事業実施への大きな支障となっています。
 所有者不明土地が発生する原因には,「子どもなどの相続人がいない場合」,「相続人が決まらなかった場合」,「相続人が登記簿の名義を変更していない場合」などがありますが,特に,3つ目の「相続人が登記簿の名義を変更してない場合」が一番大きな原因であり,前述の国土交通省調査によれば,所有者不明土地発生の原因の割合は「相続登記の未了(62%)」,「住所変更登記の未了(34%)」に及びます。
 この様な状況を踏まえて,近年,所有者不明土地の解消に向けて,所有者不明土地の発生防止と利用の円滑化の両面から民事基本法制が見直されることになりましたので,本コラムではその概要をご紹介します。

1 所有者不明土地の発生防止
⑴ 登記がされるようにするための不動産登記制度の見直し
① 不動産登記の申請義務化
 相続登記がされないことの原因の1つに,相続登記の申請義務がなく,申請をしなくても不利益を被ることが少なかったことが挙げられます。そこで,所有者不明土地の発生を防止する方策の1つとして,令和6年4月1日以降,不動産を取得した相続人に対し,取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を義務付けられます(不動産登記法76条の2)。かかる相続登記の申請義務は,令和6年4月1日よりも前に発生していた相続にも課されます(ただし,施行日と申請義務の要件を充足した日のいずれか遅い日が起算日となります。)。また,正当な理由のない申告漏れには10万円以下の過料の罰則があります(同164条1項)。
 なお,相続登記の申請義務の実効性を確保するため,登記の手続的な負担の軽減策(単独で申告可,添付書面の簡略化,非課税)も同時に施行されます(同76条の3)。
② その他
 上記①以外にも,(ア)登記官による登記名義人の死亡等の事実の公示,(イ)所有権の登記名義人に対する住所等の変更登記の義務化,(ウ)職権登記制度,(エ)所有不動産記録証明制度の新設が,令和8年4月までに施行されることになっています。
⑵ 土地を手放すための制度の創設
 土地利用ニーズの低下等により,土地を相続したものの土地を手放したいと考える方が増加したり,相続を契機として土地を望まず取得した所有者の負担感が増したりしていて,管理の不全化を招いています。
 そこで,かかる管理の不全化を防ぐために,相続等により土地の所有権を取得した者が,法務大臣の承認を受けて,その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度が創設され,令和5年4月27日から施行されました。同制度の利用には一定の要件をみたした土地であることと負担金の納付が必要なりますので,詳しくは弁護士にご相談ください。

2 所有者不明土地の利用の円滑化
⑴ 所有者不明土地・建物の管理制度
 民法264条の2以下で,特定の土地・建物のみに特化して管理を行う所有者不明土地管理制度及び所有者不明建物管理制度が創設されました。同制度により,「人単位」ではなく「不動産単位」での管理ができることになり,土地・建物の効率的かつ適切な管理が実現できるほか,所有者が特定できないケースについても対応が可能になりました。
⑵ 管理不全土地・建物の管理制度
所有者による管理が適切に行われず,荒廃・老朽化等によって危険を生じさせる管理不全状態にある土地・建物は,近隣に悪影響を与えることがあり,このような土地・建物は,所有者の所在が判明している場合でも問題となります。そこで,民法264条の9以下で,管理不全土地・建物について,裁判所が,利害関係人の請求により,管理人による管理を命ずる処分を可能とする管理不全土地・建物管理制度を創設されました。
⑶ 不明共有者がいる場合への対応
 不明共有者がいる場合には,利用に関する共有者間の意思決定や持分の集約が困難になるという問題がありました。
 そこで,新民法では,不明共有者がいる場合に,裁判所の決定を得て,所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により,共有物に変更を加えることができる制度(新民法251Ⅱ)や,不明共有者以外の共有者の持分の過半数により,管理に関する事項を決定することができる制度(新民法252条2項1号)を創設しました。かかる制度により,不明共有者がいても,共有物の利用・処分を円滑に進めることが可能になります。
⑷ 遺産分割長期未了状態への対応
 長期間放置された後の遺産分割では具体的相続分に関する証拠等が散逸し,共有状態の解消が困難にあるという問題がありました。
 そこで,民法904条の3で,相続開始から10年を経過したときは,原則として,個別案件ごとに異なる具体的相続分による分割の利益を消滅させ,画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う仕組みを創設されました。なお,具体的相続分による遺産分割の時的限界は,令和5年4月1日以前の相続にも適用されますが,経過措置により,少なくとも施行時から5年の猶予期間が設けられています。
⑸ 隣地等の利用・管理の円滑化
 ライフラインの導管等を隣地等に設置することについての根拠規定がなく,土地の利用を阻害していました。そこで,民法209条で,ライフラインを自己の土地に引き込むための導管等の設備を他人の土地に設置する権利を明確化し、隣地所有者不明状態にも対応できる仕組みが創設されました。

 以上は,各制度の簡単な説明になりますので,より詳しく制度の内容をお知りになりたい場合には,お気軽にご相談ください。

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