弁護士コラム

2024/1

不同意性交等罪・不同意わいせつ罪

室之園室之園 大介

 2023年7月、改正刑法が施行され、強制性交等罪は「不同意性交等罪」へ、強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」へとそれぞれ改正されました。この2つの性犯罪については、罪名が変わっただけではなく、その内容も大きく変わりました。施行からまだ半年程度しか経過しておらず、馴染みのない方も多いのではないかと思うので、今回はその概略をご紹介したいと思います。

 まず、不同意性交等罪の前に、「強制性交等罪」という罪にあまり聞き覚えがない方もいるかもしれません。強制性交等罪は、以前は「強姦罪」という罪名で、2017年に改正されて「強制性交等罪」となりました。要するに、強制性交等罪も不同意性交等罪も、以前でいう強姦罪のことです。
強姦罪は、「暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。」という内容で、被害者は「女子」に限られ、対象となる行為は「姦淫(かんいん)」(性交)に限られていました。それが、強制性交等罪に改正され、「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下『性交等』という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。」という内容になり、被害者は女子に限られず、対象となる行為には肛門性交・口腔性交も含まれることになりました。

 そして今回、強制性交等罪が不同意性交等罪に、強制わいせつ罪が不同意わいせつ罪に改正され、さらに大きな変更が加えられました。
 まず、強姦罪・強制性交等罪・強制わいせつ罪では、手段として暴行・脅迫を用いた場合のみを対象としていましたが、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪では、次の①~⑨が対象とされています。

  1. ①暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
  2. ②心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
  3. ③アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
  4. ④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
  5. ⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
  6. ⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
  7. ⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
  8. ⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
  9. ⑨上記①~⑧に類する行為又は事由

 次に、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪では、同意しない意思を「形成」し、「表明」し、若しくは「全う」することが困難な状態にさせて(または既にその状態にあることに乗じて)、性交等やわいせつな行為を行った場合に成立するものとされています。
この「形成」「表明」「全う」については、法務省が公表しているQ&Aでは次のように説明されています。

  1. (1) 同意しない意思を「形成」することが困難な状態とは
    →性的行為をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけや能力が不足していて、性的行為をしない、したくないという意思を持つこと自体が難しい状態。
  2. (2) 同意しない意思を「表明」することが困難な状態とは
    →性的行為をしない、したくないという意思を持つことはできたものの、それを外部に表すことが難しい状態。
  3. (3) 同意しない意思を「全う」することが困難な状態とは
    →性的行為をしない、したくないという意思を外部に表すことはできたものの、その意思のとおりになることが難しい状態。

 次に、不同意性交等罪では、処罰の対象となる「性交等」の内容は、「性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの」とされています。強姦罪では「姦淫(かんいん)」(性交)が、強制性交等罪では「性交、肛門性交又は口腔性交」が処罰対象とされていたので、その範囲が更に拡大されています。

 次に、行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等やわいせつな行為をした場合にも、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立します。この場合は、上記①~⑨の手段や、「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」がなくても、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立します。

 以上、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪について、主な改正内容に絞ってその概要をご紹介しましたが、上記以外にも大きな変更点はあります(例えば、婚姻関係があっても不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立することが条文に明記された点など)。
刑法の不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の条文を末尾に載せておきますので、興味のある方は読んでみると、新しい発見があるかもしれません。

(不同意わいせつ)
第176条

  1. 1 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
    1. ① 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
    2. ② 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
    3. ③ アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
    4. ④ 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
    5. ⑤ 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
    6. ⑥ 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
    7. ⑦ 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
    8. ⑧ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
  2. 2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
  3. 3 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。

(不同意性交等)

第177条
  1. 1 前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第179条第2項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
  2. 2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
  3. 3 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。

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