弁護士コラム

2024/04

法律相談への備え

前田 八郎

 当事務所のコラムを読んで頂いている方は,当職がサッカー好きであることはご存知かと思いますが,実は,ゴルフもやります。
 当職がゴルフを始めたのは,司法修習生時代のゴルフ好きの教官に誘われたことがきっかけでした。同教官に誘われて埼玉県和光市にある司法修習所近くの練習場で打ちっぱなしデビューしたのは,17年前のことになります。もっとも,初めのうちはゴルフよりもサッカーが楽しく,全くゴルフにのめり込むことはなく,当職がゴルフを面白いと思うようになったのは,ゴルフを始めて15年が経過した2022年の8月のことでした。当時はコロナが流行していて大人数で行うサッカーを控えていたため,より少人数で楽しめるスポーツと考えてゴルフに力を入れることにしました。とはいえ,スクールに通うほどの熱意も湧かなかったので,まずは文明の利器に頼り,タブレットでYouTubeを見ることから始めました。

※三甲ゴルフ倶楽部富士コースにて。富士山と桜が綺麗でした。
 手始めに「ゴルフ」で検索して,上から順に視聴してみました。しかしながら,再生回数の多い動画が必ずしも自分のレベルに合った内容とは限らず,素人であった当職には動画内で語られている内容を理解することすら出来ませんでした。
 そこで,仕切り直して,今度は「ゴルフ 基礎」で検索したところ,今度は,クラブの握り方,構え(アドレス)などを解説した初心者向けの動画が出てきましたので,それらをいくつか視聴して,休日に練習場に行ってYouTube先生の教えを実行してみました。するとYouTube先生の教えにより(自分的に)見違えるほどフォームが整いました。ただ,これが果てしないゴルフ道の始まりでした。人間欲が出るもので,少し良い球が打てるとより良い球が打ちたくなります。また,隣の方が遠くに飛ばしていると「自分も!」と思い,力が入ります。ただ,事はそう単純ではなく,クラブを力いっぱい振れば飛ぶというものではありません。球は右へ左へ行き,はたまた地を這う様になり,むしろ以前に比べて飛ばなくなりました。困ったときはYouTube先生に相談します。今度は「ゴルフ 飛距離アップ」で検索して,出てきた動画を見ます。この繰り返しです。つまり,練習場に行って課題が見つかれば,YouTube先生に教えを乞い,練習場で実践する。するとさらに課題が見つかるので,再びYouTube先生に教えを乞うという,無限ループです。
 そして,YouTubeを見て練習しているうちに1つの問題に気づきました。それは,視聴したYouTube先生の教えが必ずしも自分に合っているとは限らないという問題です。基礎を学んでいる間はそれほど感じませんでしたが,ある程度上達して来るとYouTube先生の教え通りにやってみても上手くいかなくなってきたのです。原因は,おそらくある程度練習をしたことで当職のスイングに独特の癖がついたからと理解しています。つまり,YouTube先生と当職のスイングの癖が違うので,特定の部分だけを直しても直ぐにはYouTube先生の様に打てないことを知りました。結局,全てあるいは全体の大事な部分が同じでないと同一の効果がでないということを知りました。
 ここまで話した内容は,皆様が法律問題をご自身で調べるときにも当てはまります。
 すなわち,近年,インターネットで事前に類似した事例を調べたうえで,ご相談に来ていただける方が増えています。もちろん,事前に調べてきていただけると,基礎知識の説明を省けるため,限られた時間内の法律相談ではとても助かりますが,中には事前インターネットで調べた結果と同じ結果になると期待してご相談に来られる方も時々いらっしゃいます。
 しかしながら,インターネット上の事例と皆様の問題では,前提条件である事実が異なります。異なる事実が些末な事実であれば結論に大きな差は生じませんが,大事な事実が異なる場合には結論に大きく差が乗じることもあり得ます。YouTube先生と当職でスイングの癖が違うことと同じです。全てあるいは全体の大事な部分が同じでないと同一の効果がでないということです。
 そのため,仮に,インターネットで事前に調査される場合には,インターネット上の事例と皆様の問題の前提条件となる事情の相違点に十分に注意して調べてください。
 ここで,相違点を把握する1つのコツは,皆様にとって不利な結論が示された事例を参照することになります。人間はどうしても自分にとって都合の良い情報を得たくなります。そうすると結論に目が行き,細かな違いに気づかなくなります。逆に,自分にとって不利な事例を見ると,自分の問題との違いを探す様になります。その結果,結論に影響を与える大事な事情に気づき易くになります。
 とはいえ,皆様の問題がどの様な結果に至るか,その判断はとても難しい作業になります。それこそ,知識と経験に基づいた当職らの仕事といえます。
 したがいまして,元も子もない話ですが,皆様が当職らにご相談される前には,インターネットで事前に調べて頂く必要はありません。大事なことは,前提条件になる「事実・事情・経緯」です。これらは当職らには分かりません。そのため,相談の際には,皆様が認識している「事実・事情・経緯」をできる限り思い出し,整理してお越し頂けると,当職らはとても助かります。
 もちろん,何も事前準備をされなくても全く問題ありません。
 お困りのことがあれば,何よりもまずはご相談ください。

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