2024/6
戸籍謄本等の広域交付について
成瀬 翠
親や配偶者が亡くなり、不動産の名義変更や預貯金の解約などの相続手続を行う場合、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本が必要となります。
これまでは、戸籍謄本を取得するためには、亡くなった方の本籍地の市区町村に請求する必要がありました。
そのため、本籍地が遠方にあり、その市区町村の窓口まで行くことが難しい場合には、郵送で戸籍謄本を請求する必要があり、手元に戸籍謄本が届くまでには日数を要してしまいました。
また、婚姻などに伴い本籍地の市区町村が変わっている場合、必要な戸籍謄本を全て揃えるためにはそれぞれ別の市区町村に対して請求しなければなりませんでした。
しかし、令和6年3月1日から戸籍法が改正され、戸籍謄本等の広域交付制度が始まっており、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本や除籍謄本を取得することができるようになりました。
本籍地が遠方にある場合でも、自宅や勤務先などの近所の市区町村の窓口で戸籍謄本等を取得することができるようになったのです。
また、出生から死亡までの間に本籍地が変わった場合であっても、まとめて戸籍謄本を請求することができるようになりました。
ただし、この制度にはいくつかの注意点があります。
まず、この制度を利用することができるのは、本人や配偶者、父母・祖父母などの直系尊属、子・孫などの直系卑属の戸籍謄本や除籍謄本を取得する場合に限られます。そのため、兄弟姉妹の戸籍謄本が必要となる場合には、本人や親の戸籍謄本に兄弟姉妹が記載されていれば取得することができますが、結婚などによって兄弟姉妹が除籍されているような場合には、結婚後の戸籍謄本はこれまでと同様に本籍地の市区町村へ請求する必要があります。
また、電子化されておらず、紙で保管されている戸籍謄本については、従前どおりそれが保管されている本籍地の市区町村へ請求する必要があります。
さらに、戸籍に記載されている事項のうち、婚姻や死亡などの一部の身分事項のみが記載された一部事項証明書や、一部の人の事項のみが記載された個人事項証明書については、本籍地の市区町村以外では発行できません。
そして、この点が個人的には最も不便と感じる点なのですが、この広域交付の制度は本人が窓口で請求する場合に限られ、郵送や代理人による請求の場合には利用することはできません。
弁護士が相続手続などのご依頼を受けて戸籍謄本等を請求する場合にはこの制度を利用することはできないため、結局本籍地の市区町村に対して請求しなければなりません。
そのためか、少なくとも私の周囲の弁護士の間では、この制度についてはそれほど話題にはなっていない印象ですが、皆様がご自身で戸籍謄本等を取得される場合には便利な制度ですので、覚えておいて損はないのではないでしょうか。
なお、この制度の開始直後は、システムの不具合により全国的に本籍地以外の市区町村では戸籍謄本等を発行しづらい状況となっていたようです。現在は一定程度改善されたようですが、当面の間は本籍地以外の市区町村の窓口で請求が行われると本籍地の市区町村へ電話で必要な情報を確認する扱いとなっているようで、戸籍謄本等の交付を受けるまで長時間待たなければならなかったり、状況次第では請求した当日中に交付を受けられなかったりする場合もあるようです。