2025/1
【第30回司法シンポジウムのご報告】
浦田 修志
3年前にこのコラムで第29回司法シンポジウムのご案内をしました。今回は、第30回司法シンポジウム(昨年11月2日開催)のご報告です。司法シンポジウムは、日弁連でも大きなイベントの1つですが、前回は副委員長・部会長の立場で関与していたため、広報も兼ねてご案内しました。司法シンポジウムに役職者として関わるのは前回が最後と思っていましたが、はからずも2回連続で副委員長・部会長の立場で関わることになりましたので、今回は開催後のご報告をします。
第30回司法シンポジウムのメインテーマは「司法制度改革の到達点とこれからの課題」です。現在の法科大学院や裁判員制度などができたのは、平成13年に司法制度改革審議会が意見書を取りまとめ、政府がその意見書に沿って司法制度改革を制度化したからですが、この意見書が公表されてから20年以上経過しました。そこで、第30回司法シンポジウムでは、司法制度改革をメインテーマにし、4つの分科会を設けて議論をしました。第1分科会は「多様、柔軟かつ持続可能な裁判官制度の実現」、第2分科会は「少子高齢化社会と裁判所・弁護士の役割」、第3分科会は「行政訴訟改革の到達点と課題-行政内部における法の支配の実現」、第4分科会は「AI時代の司法制度」です。
この20年の間に、行政訴訟改革などうまく進んでいない分野もあれば、少子高齢化の進展や司法のIT化、AIの発展など、当時は想定されていなかった事態も生じています。私は、第2分科会の責任者をしましたので、以下、第2分科会の内容を少し詳しくご報告します。
近時は、少子化を背景の1つとして、子どもをめぐる紛争が増加・先鋭化しており、その中で、子どもの利益を保護し、子どもの意見表明権(子どもの声をきちんく聴くことで、子どもの権利条約に規定があります)を保障するにはどうしたらよいかを考えることがより一層重要になっています。また、現在、法制審議会において、成年後見制度の改正に向けた議論がなされており、高齢者の権利擁護のために裁判所・弁護士の役割はどうあるべきかを考える必要もあります。さらに、少子高齢化の進展によって労働力人口が減少すると、司法の担い手も減少することになるため、持続可能な形で担い手を確保するためにはどうしたらよいかを考える必要があります。このような観点から、第2分科会では、少子化・子ども、高齢化・高齢者、子ども・高齢者の権利を守る担い手の確保という3つの視点に分けて議論をしました。
少子化・子どもの視点では、原田綾子名古屋大学大学院法学研究科教授をお招きし、子どもに優しい家事司法改革を目指す必要があること、子どもの意見表明権を保障するために子どもの手続代理人を活用し、その費用を国費化・適正化することの重要性などが確認されました。
高齢化・高齢者の視点では、上山泰新潟大学法学部教授をお招きし、法制審議会での議論を踏まえて、成年後見制度を適切な時機に必要な範囲・期間で利用できる制度にすると、判断する家庭裁判所の負担が重くなることや、弁護士にも副次的な役割が今まで以上に求められることなどが指摘されました。
最後に、担い手確保の視点では、子どもの権利を守る活動や弁護士が成年後見関係事件に専門職として関与する場合は、適正な対価が支払われるべきであることや、民事法律扶助制度についても報酬の適正化が必要であること、担い手を持続可能な形で確保するには、弁護士の経済的基盤の確保が必要であることなどが確認されました。
第30回司法シンポジウムの基調報告書は日弁連のウェブサイト日本弁護士連合会:第30回司法シンポジウムからご覧いただくことができます。ご関心のある方は是非ご覧ください。