弁護士コラム

2025/10

相隣関係の見直し

前田 八郎

相隣関係とは、隣接する土地や建物の所有者同士の法的な関係をいいます。かかる相隣関係については、旧民法の第209条から第238条に規定されていました。しかし、世の中の変化により、旧民法の規程の一部は今の社会状況に合わなくなってきました。とくに最近では、所有者不明土地が増えたことで、隣地の使用や枝の切取りなどに関する同意を得ることができず、土地の利用が困難になるケースが見受けられる様になりました。そこで、令和5年の民法改正では隣地等の利用・管理の円滑化を目的に相隣関係規定が見直され、同年4月1日から施行されました。
 大きな改正項目は、「隣地使用権」、「ライフラインの設備の設置・使用権」、「越境した竹木の枝の切り取り」の3項目になります。
 改正から2年以上が経過していますが、最近、立て続けに相隣関係の法律相談を受けたため、改めて自分自身の知識を確認するために、本コラムで紹介させて頂くことにしました。

1 隣地使用権

[新民法209条]

第1項:
土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
① 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
② 境界標の調査又は境界に関する測量
③ 第233条第3項の規定による枝の切取り
第2項:
前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(隣地使用者)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
第3項:
第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
第4条:
第1項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

 改正前は「使用を請求することができる」と規定されていましたが、「使用することができる」と改正され、権利があることが明確になりました。また、改正前は隣地使用が認められる目的は「境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため」だけでしたが、改正により目的が拡充され、明確に示されました。
 ただし、いくら権利があるとはいえ、隣地所有者・隣地使用者の利益に配慮する必要があります。そこで、同条の2項以下で、隣地使用の日時・場所・方法は損害が最も少ないものを選ばなければならないことを明記し、3項では、隣地使用に際しての通知に関するルールを定めました。なお、4項では、改正前と同じく、隣地所有者・隣地使用者に損害を与えた場合の補償について規定されています。


2 ライフラインの設備の設置・使用権

改正前の民法では、ライフラインの設備の設置に関する明確な規定がなかったため、他人の土地や設備(導管等)を使用しなければ各種ライフラインを引き込むことができない土地の所有者は、改正前の相隣関係を応用して、他人の土地への設備の設置などができると考えられていました。ただ、明文の規定がなかったため、設備の設置や使用に応じてもらえなかったり、使用したい土地の所有者が不明である場合に、対応が困難になっていました。
 そこで、令和5年の改正では、ライフラインの設備の設置・使用権の明確化されました。
[新民法213条の2]

第1項:
土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。

 もっとも、隣地使用権と同様に、他の土地の所有者・使用者の利益に配慮する必要があります。そこで、新民法213条の2の2項以下では、設備の設置又は使用の場所及び方法の制約(2項)と事前通知(3項)、償金(5項・6項)・費用負担(7項)などに関するルールの整備が行われました。
 なお、隣地使用権と異なり、通知の相手方が不特定または所在不明である場合にも、例外なく通知が必要とされているため、「公示による意思表示」(簡易裁判所)の手続きなどを利用して通知する必要があります。


3 越境した竹木の枝の切り取り

 改正前の民法では、隣地から竹木の根や枝が越境している場合、土地の所有者は自ら越境してきている根の部分を切り取ることができましたが、枝の切取りは竹木の所有者に対して切除を請求することができるまでにとどまり、勝手に切り取ることができませんでした。
 しかも、その請求に応じてもらえない場合には、裁判を起こして判決を得てから強制執行などの手続きをとらなければならないため、枝が越境するたびに同じ手続きをするのは大きな負担となっていました。さらに、その竹木が複数人で共有されていた場合、切り取るには共有者全員の同意を得ることが必要とされていた他、そもそも所有者が不明であった場合には切り取るのが困難な事態になってしまいます。そこで、竹木の円滑な管理のために、土地の所有者による枝の切取りや共有者各自による枝の切除に関して民法が改正されました。

[新民法233条]

第1項:
土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
第2項:
前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
第3項:
第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
① 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
② 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
③ 急迫の事情があるとき。
第4項:
隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

 第1項では、隣地所有者によってむやみに枝が切り取られてしまわない様に、竹木の所有者に枝を切除させる必要があるという原則を維持しましたが、2項を新設して、竹木が複数人の共有物である場合でも、共有者全員の同意がなくても各共有者が単独で枝を切り取ることができることが明文化されました。つまり、共有者のうちの一人から承諾を得ればその共有者に代わって枝を切り取ることができ、また、共有者のうちの一人に対してその切除を命じる判決を得れば代替執行することができる様になりました。
 さらに、3項では、一定の条件のもとで、土地所有者が、自ら枝を切り取ることができる様になりました。

 以上のとおり、今までは法律に明文の規定がなく、色々と不便を強いられていた相隣関係ですが、今回の改正により、大幅に使い勝手は良くなったと考えられます。
 ただし、隣地使用権やライフライン設置権は、いくら権利があるといっても、相手から使用を拒まれた場合の自力救済(法律の手続きによらず実力行使すること)は禁止されていますので、妨害禁止の判決を求める裁判が必要になります。また、枝の切取りも、実害がないにもかかわらずむやみに行使することは権利の濫用にあたりますので、注意が必要です。
 あくまで改正の目的は、土地利用の円滑化ですので、新たなトラブルが発生しないよう、ご注意ください。

以上

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